「人手が足りないので明日からお願いします」
介護ヘルパーの資格を取り、紹介されて面接に行った会社。
まだ正式に入社していないのに、面接を行った後で直ぐ会社から仕事依頼の連絡が来た。
「要介護5?ムリムリ!聞いてないよう!」
叫ぶゆとりさえなかった私。
次の日、先輩のヘルパーさんが私と一緒に利用者の新田さん宅まで同行してくれ、30分だけ私に介護の説明をしてすぐ帰っていった。(初心者に任せてしまう会社?あの後直ぐに潰れた😁)
利用者の新田さんは六十歳。
要介度5の寝たきり男性だった。
毎週水曜日が私の担当。
お昼を食べさせ、清拭をして着替えてからは他愛ないおしゃべりもして良く笑ってくれた。
簡単そうに見えたけど、新田さんのお世話は少し変わっていた。
新田さんはオムツの中でおしっこもウンチもしない派。
下半身不随だけど、尿意と便意はある。
「あぁ小便出そう!」
声を掛けられると尿瓶と手袋をバタバタと用意。
介護ヘルパー初日には、恐る恐るオムツを外し、男性のイチモツをまじまじと見ることになった。😁
夫のイチモツもハッキリ見たことがないのに…
午後、心臓がバクバクしながら決められた仕事を何とかとこなし、自転車で急いで家に帰ったけど。
しわだらけのショボンとしたイチモツを持ち上げた感触が頭から離れなくて。
お昼ごはん、一口も食べられなくて。
かなりのショックで家に帰り着いたとたんに泣けた。
「出るよ。出るよ〜」
新田さんは大便が出そうになると私を呼ぶ。
パジャマとオムツを外して直ぐに広げたオムツの上で用を足す新田さん。
とてもきれい好きな人で、自分のお尻周りを汚したくないらしい。
私は手袋を両手につけて肛門の前で待機している。大便をシッカリ受け止めるために。
あ、ヘルパー研修では男性のオムツを取り換えた事がなかった。
大便を手で受け止める心構えもなかった。
でも毎週通っていると、ベッドに寝たきりで散歩にも行けない新田さんが不憫で、
家族のような情が芽生えてくるようになった。
うんちもおしっこも、汚いというより愛おしく思えてきた。
新田さんは二人暮らしなのに奥様と会話している姿を一度も見たことがない。
私とも最低限の一言三言だけ。いつもそばにはいない。
昼食のお料理はいつも同じおかずで、人参と厚揚げと蒟蒻だけの煮物にご飯。海苔の佃煮。
私だったら飲み込みにくいものは出さないな…と心の中で同情していた。
そして食事補助にも慣れてきた頃、気が緩んだのかセクハラオヤジの眼に変化が…
おかずを選ぶふりをして毎回私の胸をエプロンの上からそっと撫でる。ウエスト辺りもタッチしてきて。
でも慣れって恐ろしい。
服の上から軽く胸を触られても腹が立たない。
ま、五十も過ぎるとちょっと触られても動じないのだ。
それに、もし我が父が同じ事を!と想像するだけで憎めなくなってしまう。
何でも良い方向に解釈してしまうのが私の悪い癖なんだけど。
私が上手く避けたり知らん顔してるのが面白くなかったのか、オヤジはしばらくしてセクハラを諦めた。
寂しくてちょっかい出してきたのは分かっているんだけど…
新たなヘルパーステーションに誘われた後、新田さんが亡くなった事を知る。
季節が何度変わっても、
新田さん宅の前を自転車で走る度、
今も胸がキュッと痛くなる・・・
私が関わった利用者さんの名前は今も消す気にはなれないのだ。
Comments