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  • 執筆者の写真さち ebi

女房のウンチは味噌だ

長い事奥さまを介護しているご主人が放ったセリフ。

何年経っても頭から離れない、忘れることができない二人の姿。


六畳一間に小さな台所がついた狭くて古いアパートに、介護ヘルパーとして私を迎えてくれたご夫婦は、六十代のにこやかなご主人と殆どベッドにいる七十代の奥様でした。


私の家から自転車で30分かかる市営住宅に、それから何度も通うことになって、身の上話をご主人からお聞きした。

そして、介護の仕方にも仰天しっぱなし。


ご主人はとても明るくて話しやすい方。

ご自分から話しかけてくれるし、聞かないことまで何でも教えてくれた。


元タクシー運転手さん。

車の中で歌を歌うタクシー屋さんとして当時はお客様の間で人気者だったらしい。


とても気さくでよく喋るご主人は、聞いてもいないのに毎回色々な事を教えてくれる話し上手。

面白くて、お喋りな私もついつい聞き役に徹してしまう。


奥さんとの馴れ初めをご自分から聞いて話し出す。

一回りも違う年上女性だったけど、とても面倒見が良くて惚れてしまったらしい。

「年齢は関係ないよ。性格だよ。だから一緒になったんだ」

私の眼を真っ直ぐに見て、ぬけぬけと話してくれた。


「今はその恩返しだ!」

私に話して聞かせるご主人の顔は、とても晴々として頼もしかった。


そして、ご主人の気遣いある介護にも、側で見ていてとてもビックリ!


「俺の奥さんだから」

笑いながらご自分でオムツ交換していて、私には触れさせない。


奥さんが着ていた浴衣や洋服の数々が小さなウエスにされていて、たくさん袋に入っている。

はみ出たウンチやへばり付いたウンチを素手で拭き取っていて、ぬるま湯で再度きれいに!


袋のウエスは丁寧に丁寧に、きちんと畳まれきちんと切りそろえてあって。

ご主人の性格が見ているだけで伝わってくる。

「私がいるのにな」と口出しできない愛しさが漂っているのだ。


溢れ出すウンチは全て味噌!

笑いながら慣れた手つきでウンチの始末をするご主人。


「うんちは味噌だと思わないとやってけないよ」

格好良いセリフ!こりゃあ奥さんが惚れるわけだ!


その数年後、私が父や母のオムツを取り替える時期には、ご主人の心意気を真似て介護を担ってきた。


食事の支度もそう。

料理が得意なご主人は煮物も全て自分で作って、スーパーで買ったお豆腐やプリン、煮豆や茹で卵、お赤飯も全てミキサーに突っ込み、ガーッと音を立てて滑らかにする。


最初その光景を目の前で見た時、私は思わず息を止めた。

心の中では『気持ち悪い』と叫んでいたような気も!

まだまだ介護ヘルパーになりたてだったから経験も浅く、汚いこと全てに理由があることに全く慣れていなかった。


ミキサーからのドロドロ液体を深いお皿に盛り付けてから、大きくて太い注射器で吸い込み、奥さんの唇の端からその先端を差し込み注入していく。


奥さんは意識はあり座ったりもできるけど、一言も喋らないでゆったりごっくん。

もちろん怒ったり手を叩いたり払ったり、そんなことも一切ない。

穏やかな介護をしてもらってるから奥さんも穏やかだった。

私を見ている目元も柔らかで、全てをご主人に委ねている奥さん。

見ていてとても安心する。


全く何もできない奥さんを毎日看ているご主人。本当に大変だろうな。

「ストレス解消法は仲間とのカラオケだ。デイサービスがある時な」

ヤッパリ上手に解消していた。


昔はとても仲良しだったご夫婦が垣間見えた。


あの仲良しご夫婦のことは一生忘れない。

今もハッキリとあの小さな部屋の光景を思い出すことができる。


親を介護するのに、「下の世話をするのが恥ずかしい!」「苦手だよ!」とか、「お風呂の介助?できないよ」

母親と暮らしている男友達がのたまう。

そんなことを言ってる暇はないの。

そろそろ腹をくくりなさいね。自分の親でしょ。


たとえ男親でも女親でも、ちゃんと親の世話してる人は沢山いるのよ。

オムツ取り替えわかんないなら私に電話して!!



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